矢次真也の数学コラム:「0(ゼロ)」の発見と歴史~「無」を表す偉大な発明

 

矢次真也の数学コラム:「0(ゼロ)」の発見と歴史~「無」を表す偉大な発明

この記事のポイント

  • 📊 「0(ゼロ)」は約2500年前までは存在せず、「無」を表す概念が長い時間をかけて発展した
  • 🧮 バビロニア、マヤ、インドなど複数の文明が独自にゼロの概念を発展させた
  • 🔍 ゼロの発見は単なる記数法の改良ではなく、哲学的・数学的思考の大きな転換点だった

はじめに

こんにちは、矢次真也です。65歳で定年退職後、数学の面白さを伝えるブログを続けています。若い頃からの数学好きが高じて、今では地元の図書館で数学読書会を主催するほどです。

先日、小学3年生の孫が算数の宿題で「0÷2はいくつ?」という問題に頭を悩ませていました。「0は何もないってことでしょ?なのにどうやって分けるの?」という素朴な疑問に、私は「そもそも『無』を表す『0』という概念自体が、人類の偉大な発明なんだよ」と答えました。

実は「0(ゼロ)」という数字と概念は、今では当たり前に使われていますが、人類の歴史の中では比較的新しい発明なのです。今回は、この「無」を表す数字の誕生と発展について、時代を遡りながら探っていきましょう。

第1章:ゼロのない古代世界

古代文明と数の表現

人類が最初に数を記録し始めたのは、約5000年前と言われています。しかし、最初の数字システムには「0(ゼロ)」は存在しませんでした。

📌 古代エジプトのヒエログリフや、古代ローマの数字システム(ローマ数字)には、「無」を表す記号はありませんでした。

私が学生だった1960年代、学校で習ったローマ数字には確かにゼロがありませんでした。「I, V, X, L, C, D, M」で表されるこのシステムでは、何かがない状態を表現する必要性を感じなかったようです。考えてみれば、石や木に刻む時代において、「何もない」を記録する必要性を感じなかったのも不思議ではありません。

「無」を表現する哲学的課題

「無」という概念自体は古くから哲学者たちの間で議論されていました。しかし、それを数学的に扱うことは大きな飛躍でした。

💡 「何もない」という抽象的な概念を、具体的な記号で表し、さらにそれを計算に使うという発想は、実は非常に革新的なものだったのです。

定年後に哲学書を読み始めた私は、パルメニデスやゼノンといった古代ギリシャの哲学者たちが「存在と非存在」について深く考察していたことを知りました。彼らは「無」を概念として捉えましたが、それを数学の中に組み込むまでには至りませんでした。「無を数えることができるのか?」という問いは、今でも哲学的に深いものです。

第2章:ゼロの先駆者たち

バビロニアのプレースホルダー

最初にゼロに近い概念を記録システムに導入したのは、紀元前3世紀頃のバビロニア人と考えられています。

🔍 彼らは60進法を使い、数字の位取りを示すために「プレースホルダー」として特別な記号を使い始めました。これは完全なゼロではありませんでしたが、「その位に数字がない」ことを示す重要な一歩でした。

私が退職前に勤めていたエンジニアリング会社では、時々古代の測量技術について調べることがありました。バビロニア人たちの驚くべき精度の計算は、この位取りシステムなしには不可能だったでしょう。現代のコンピューターも、元をたどればこの位取りの概念から発展したと言えるかもしれません。

マヤ文明のゼロ

興味深いことに、新大陸のマヤ文明も独自にゼロの概念を発展させました。

📌 紀元前36年頃、マヤ人は貝殻の形をした記号で「完全な周期」または「無」を表していました。これは西洋がゼロを採用するよりもずっと前のことです。

孫とメキシコの博物館をバーチャルツアーで見学したとき、マヤのカレンダーにはゼロに相当する記号があることを教えてもらいました。地球の反対側で、全く異なる文明が独自にゼロの概念に到達したという事実は、この概念が人類の思考の発展において普遍的な重要性を持つことを示しています。

第3章:インドからの革命

ブラフマグプタとゼロの数学化

現代のゼロの概念に最も大きな影響を与えたのは、古代インドの数学でした。

✨ 7世紀の数学者ブラフマグプタは、ゼロを他の数と同様に扱い、ゼロを使った計算のルールを初めて明確に定義しました。彼はゼロと他の数との加減乗除について体系的に説明したのです。

65歳になった今でも、ブラフマグプタの業績に感動します。彼は「0 + a = a」「a - 0 = a」「0 × a = 0」といった今では当たり前の法則を初めて明文化したのです。特に「a ÷ 0」が定義できないという指摘は、数学の基礎を築く重要な洞察でした。私の孫の素朴な質問も、実はこの深遠な問題に関連していたのです。

インドからアラビアへ、そして西洋へ

インドで発展したゼロの概念と十進法は、アラビア世界を通じてヨーロッパへと伝わりました。

🧮 9世紀頃、ペルシャの数学者アル・フワーリズミーはインドの数字システムを採用し、広めることに貢献しました。その結果、私たちが今使っているアラビア数字システムと、その中のゼロが生まれたのです。

私は退職後に数学史の勉強会を始めましたが、参加者の方々はこの「数字の伝播」の物語に特に興味を示します。文化や言語の壁を越えて、優れた概念がどのように広がっていくかという過程は、人類の知的な冒険の美しい一例です。

第4章:ゼロの革命的意味

位取り記数法の威力

ゼロの導入は、位取り記数法を完成させ、数学の発展を加速させました。

💡 ゼロがあることで、10、100、1000などの大きな数も、少ない記号で簡潔に表現できるようになりました。これは計算の効率を劇的に向上させました。

エンジニアとして40年間働いた私の経験から言えば、技術の進歩は表記法の改良に負うところが大きいのです。良い表記法は思考そのものを変えます。ローマ数字でMMXXV(2025)の掛け算を想像してみてください。非常に煩雑ですよね。ゼロを含む位取り記数法があるからこそ、私たちは複雑な計算を効率的に行えるのです。

現代数学の礎としてのゼロ

ゼロの概念は、近代数学の発展にも不可欠でした。

📚 微積分から現代の抽象代数まで、多くの数学分野はゼロの概念なしには成立しません。例えば、数直線上での「原点」としてのゼロは、座標幾何学の基礎となっています。

私は定年後、線形代数の勉強を再開しましたが、行列における「零行列」や「零ベクトル」の概念がいかに重要か、改めて実感しています。また、プログラミングを学ぶ孫に配列のインデックスが0から始まる理由を説明したときも、ゼロの概念の重要性を伝える良い機会となりました。

まとめ:「無」を捉えた人類の偉業

「0(ゼロ)」の発見と発展は、単なる記数法の改良ではなく、人類の思考方法を根本から変えた革命でした:

  • 「無」という抽象概念を具体的な記号で表現し、計算に組み込んだこと
  • 複数の文明が独自にゼロの概念に到達したことは、その普遍的重要性を示している
  • インドの数学者たちによるゼロの数学的定義が、現代数学の礎となった
  • ゼロを含む位取り記数法は、計算の効率化と科学技術の発展を可能にした

私は65歳という年齢になって、改めて「当たり前」と思っていることの中にある革命的なアイデアに気づかされることがあります。ゼロもそのひとつです。私たちが日常的に使う「0」という小さな記号の中に、人類の知的探究の長い歴史と哲学的深みが詰まっているのです。

次回のブログでは、「無限」の概念について書いてみたいと思います。ゼロと並んで、数学史上最も興味深く、哲学的な概念のひとつである「無限」の歴史を一緒に探っていきましょう。

最後まで読んでいただき、ありがとうございました。皆さんも日常で何気なく使っている「0」に、新たな意味を見出していただければ幸いです。

【矢次真也】

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