矢次真也の数学コラム:学校数学と実践的数学のギャップ~新たな研究結果から考える
矢次真也の数学コラム:学校数学と実践的数学のギャップ~新たな研究結果から考える
この記事のポイント
- 📊 最新研究により学校で習う数学と実生活で使う数学には大きな隔たりがあることが判明
- 🧮 市場で働く子どもたちは暗算に強いが教科書問題に弱く、逆に成績優秀な子は実践的計算に弱い
- 🔍 「数学教育のあり方」について、65歳の元エンジニアとして考察する
はじめに
こんにちは、矢次真也です。65歳で定年退職後、数学の面白さを伝えるブログを続けています。元々エンジニアとして働いていた経験から、「理論と実践の橋渡し」について常に考えてきました。
今回は、非常に興味深い研究結果をご紹介します。『Nature』という世界的に権威ある科学誌に2025年2月に発表された研究で、学校で教わる数学と実生活で使う数学のスキルには大きなギャップがあるという事実が科学的に証明されたのです。
この研究結果を知ったとき、私は自分の人生経験と重ね合わせて深く考えさせられました。大学で学んだ高度な数学と、実際の仕事の現場で必要だった計算能力の違いに、常に違和感を覚えていたからです。今日は、この研究結果をもとに、学校数学と実践的数学のギャップについて考えてみたいと思います。
第1章:注目の研究結果が示す衝撃的な事実
MITの研究が明らかにした実態
アメリカのマサチューセッツ工科大学(MIT)による最新の研究では、インドのコルカタとデリーで市場で働く子どもたちと学校に通う子どもたちの計算能力を比較しました。
📌 この研究の最も衝撃的な発見は、市場で働く子どもたちが複雑な計算を瞬時にこなし、暗算で効率的に取引の金額やお釣りを求められる一方、教科書の抽象的な問題には苦戦したという点です。
逆に学校で高得点を収める子どもたちは、定型的な問題には強いものの、実際の取引シーンでは単純な計算すらうまくいかなかったというのです。
私は40年間エンジニアとして働いてきましたが、この研究結果には強く頷けます。新卒の若いエンジニアたちが、大学で優秀な成績を収めていても、現場での実践的な計算や推定にはしばしば戸惑うという光景を、何度も目にしてきました。
「学校で学ぶ=実生活に役立つ」という常識への挑戦
この研究結果は、「学校で学ぶ数学が実生活に役立つ」という従来の常識を根底から覆すものです。
🔍 実際、私たちは学校で「これは将来役に立つから」と言われて数学を学んできましたが、その「役立つ」がどのような形で実現されるのかは、あまり明確に教えられてきませんでした。
私自身、定年退職後に地元のスーパーでレジのアルバイトを半年ほど経験しましたが、そこで求められた計算能力は、学校で教わる数学とはかなり異なるものでした。お客様が急いでいる中での効率的な暗算や、最適なお釣りの出し方など、教科書には載っていない「実践的知恵」が必要だったのです。
第2章:なぜこのようなギャップが生じるのか
学校数学と実践数学の本質的な違い
学校で教える数学と実生活で使う数学には、いくつかの本質的な違いがあります:
- 抽象性 vs 具体性:学校数学は抽象的な概念を扱いますが、実践数学は具体的な物や金額を扱います。
- 正確性 vs 実用性:学校数学では完全な正確さが求められますが、実践では「十分な精度」が重視されます。
- 単一解 vs 多様な解法:学校数学には「正解」がありますが、実践では状況に応じた柔軟な解決策が必要です。
- 孤立した問題 vs 文脈依存:学校数学は孤立した問題ですが、実践数学は常に具体的な文脈の中に存在します。
💡 私が特に興味深いと思うのは、市場で働く子どもたちが独自の計算方法を編み出している点です。彼らは「学校で教わるやり方」ではなく、最も効率的な方法を実践の中で自然に身につけているのです。
私の孫(小学5年生)は学校の算数は平均点程度ですが、お小遣いの計算やゲームのポイント計算は驚くほど正確です。彼にとって「意味のある文脈」の中では、数字がずっと扱いやすくなるようです。このことにも、今回の研究結果とつながる示唆があると感じます。
教育方法と評価システムの問題
学校数学と実践数学のギャップが生まれる背景には、教育方法と評価システムの問題も関係しています。
⚠️ 現在の教育システムでは、標準化されたテストで測定できる能力が重視され、実践的な問題解決能力は適切に評価されにくいという構造的な問題があります。
私が現役時代、新入社員の採用面接に関わることがありましたが、学校の成績が良くても実践的なエンジニアリングセンスを持たない応募者と、逆に学校では目立たなかったが実践的な問題解決能力に長けた応募者の差を感じることが多々ありました。評価の仕方によって、私たちは何を「できる」と見なすかが大きく変わるのです。
第3章:両方の能力を育むための方法
実践と理論を結びつける教育アプローチ
理想的には、学校数学の抽象的理解と実践的な計算能力の両方を育むことが望ましいでしょう。そのためのアプローチとして考えられるのは:
- 文脈を持った問題設定:実生活に関連する具体的な文脈の中で数学を教える
- プロジェクトベースの学習:長期的なプロジェクトの中で数学を応用する機会を設ける
- 職業体験と数学の統合:実際の職場での数学の使われ方を体験させる
- 多様な解法の奨励:一つの「正解」だけでなく、様々なアプローチを評価する
✨ これらのアプローチは、いわゆる「活用する力」を育むことを目指しています。知識を持っているだけでなく、それを実際の場面で使いこなせることが大切なのです。
私は退職後、地元の中学校で「エンジニアの数学」という特別授業を年に数回行っています。そこでは実際の工学的な問題を簡略化して、生徒たちに考えてもらいます。最初は戸惑う生徒も多いですが、徐々に「教科書の外」の数学の面白さに目覚めていく様子は、非常に印象的です。
高齢者の視点から見た「実践的数学」の重要性
私のような高齢者の視点から見ると、実践的な数学能力の重要性はさらに明らかです。
🧠 年を重ねると抽象的な数学は徐々に忘れていきますが、日常生活で使う実践的な計算能力は維持されやすいのです。これは「使う」ことで脳の回路が強化されるためでしょう。
私の場合、大学で学んだ微分方程式や線形代数の詳細は忘れてしまいましたが、買い物での予算計算や家計のやりくりなど、日常的に使う計算能力は65歳になった今でも健在です。実践の中で継続的に使われる能力は、長く保持されるのだと実感しています。
第4章:日本の数学教育への示唆
日本の数学教育の現状と課題
日本の数学教育は国際的にも高い評価を受けていますが、この研究結果は日本の教育にも重要な示唆を与えます。
📌 日本の数学教育は基礎的な計算力や問題解決能力の育成に成功している面がありますが、実生活との結びつきや創造的な応用力の育成には課題が残されています。
私が学生だった1960年代と比べると、現在の数学教育は「考える力」を重視する方向に変わってきました。しかし、まだまだ「正解を求める」型の学習が中心で、市場の子どもたちのような創意工夫や実践的判断力を育む機会は限られているように思います。
文化的背景と実践数学
興味深いことに、日本にも「そろばん」という実践的数学の伝統があります。
💡 そろばんは学校数学とは異なるアプローチですが、多くの日本人に実践的な計算能力をもたらしてきました。これは今回の研究で示された「市場で働く子どもたち」の能力に通じるものがあります。
私は小学生の頃、放課後にそろばん教室に通っていました。そこで学んだ「数字感覚」は、後の人生で大いに役立ちました。現代の子どもたちにもこうした実践的な数字感覚を育む機会があれば良いと思います。それは必ずしも伝統的なそろばんである必要はなく、現代的な形での「実践数学」の機会かもしれません。
まとめ:理論と実践のバランスを求めて
今回紹介したMITの研究は、学校で教える数学と実生活で使う数学の間に大きなギャップがあることを明らかにしました。しかし、このことは学校数学が無価値だということではありません。むしろ、両方の能力をバランスよく育むことの重要性を示唆しています。
- 学校数学が教える抽象的思考力と論理的思考は、複雑な問題を解決する上で不可欠です
- 実践数学が育む直感的な数感覚と効率的な計算力は、日常生活で必要な能力です
- 理想的には、両方の能力を結びつけ、状況に応じて適切に使い分けられることが望ましい
私は65歳の今、長い人生を振り返って思います。数学は単なる学校の科目ではなく、生きていく上での道具であり、考え方なのだと。学校で学んだ数学と実生活で使う数学―この二つの世界を結びつけることができれば、数学はより多くの人にとって意味のあるものになるでしょう。
次回のブログでは、実生活の中で数学的思考を活かす具体的な方法について、私の経験も交えながら書いてみたいと思います。理論と実践の橋渡しになるような話ができれば幸いです。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。皆さんの日常生活の中にある「数学」に、ぜひ意識を向けてみてください。
【矢次真也】
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