矢次真也の数学コラム:刑務所で数学を学び論文を発表した男の物語~「学ぶのに遅すぎることはない」
矢次真也の数学コラム:刑務所で数学を学び論文を発表した男の物語~「学ぶのに遅すぎることはない」
この記事のポイント
- 📊 殺人罪で服役中のクリストファー・ヘイブンズが数論の論文を発表
- 🧮 困難な環境でも数学への情熱が人生を変える可能性がある
- 🔍 65歳の私から見た「学ぶのに遅すぎることはない」という真実
はじめに
こんにちは、矢次真也です。65歳で定年退職後、数学の面白さを伝えるブログを続けています。長年エンジニアとして働いた後、ようやく本格的に数学を学び直す時間ができたことを喜んでいる私ですが、今日ご紹介するのは、私よりもはるかに困難な状況から数学の道を歩み始めた方の物語です。
2020年初め、数学の学術雑誌『Research in Number Theory』に連分数に関する論文が掲載されました。その筆頭著者であるクリストファー・ヘイブンズは、高名な大学教授でも、優秀な大学院生でもありません。彼は高校中退者で、麻薬中毒に陥り、最終的には殺人を犯して刑務所に服役中の身でした。
この驚くべき事実を知ったとき、私は自分の言い訳が恥ずかしくなると同時に、深い感銘を受けました。「何かを学ぶのに遅すぎる」と思っていた自分の固定観念が、一気に吹き飛ばされたのです。今日は、このヘイブンズの物語と、そこから私たちが学べることについてお話ししたいと思います。
第1章:刑務所で数学者に変わった男
ヘイブンズの波乱の人生
クリストファー・ヘイブンズは若くして様々な困難に直面しました。高校を中退し、麻薬中毒に陥り、仕事も家庭も失ってしまいます。そして2011年、殺人罪で25年の刑を宣告され、ワシントン州の刑務所に収監されることになりました。
📌 一般的には、このような環境は学問を追求する場所とは考えられません。しかし、ヘイブンズの人生はここから驚くべき転機を迎えることになります。
私は長年、企業で働きながら「定年後にはじっくり数学を学び直そう」と思っていました。しかし、クリストファー・ヘイブンズの話を聞くと、私が直面した障壁など取るに足らないものだったと実感します。彼の話は、環境を言い訳にしていた自分を振り返るきっかけになりました。
独房での数学との出会い
ヘイブンズがどのようにして数学と出会ったのかについては、いくつかのインタビューで語られています。彼は刑務所内での問題行動により、独房での服役を命じられることになりました。完全な孤立状態の中、彼は退屈しのぎに数学に興味を持ち始めたと言います。
🔍 最初は単なる時間つぶしだったものが、次第に彼の中で情熱へと変わっていきました。様々な数のパターンを探究するうちに、彼は連分数という数学の特定分野に強い関心を持つようになったのです。
私も若い頃は数学に対して「難しくて分からない」と苦手意識を持っていました。しかし50代になって改めて数学書を手に取ったとき、若い頃には見えなかった数学の美しさが見えてきました。ヘイブンズも同様に、成熟した視点で数学に向き合ったからこそ、その魅力に気づくことができたのかもしれません。
第2章:孤立した環境から数学界への橋を架ける
数学的コミュニケーションの確立
ヘイブンズは独学で数学を学ぶ中で、多くの障壁に直面しました。特に刑務所では数学書や研究資料へのアクセスが制限されており、学びを深めるのは容易ではありませんでした。
✨ そんな中、彼は「数学者の連絡網(The Mathematical Prison Project)」という団体に手紙を書き、数学への情熱を伝えました。この手紙がきっかけとなり、彼はいくつかの数学書を手に入れることができたのです。
私も定年後、地元の数学愛好会に入会したことで学びが加速しました。仲間と共に学び、議論することの重要性は年齢を問わず大切です。ヘイブンズも孤立した環境から外部の数学者とつながることで、大きく成長できたのでしょう。
専門家との協働
ヘイブンズの才能を見出したのは、マサチューセッツ大学の数学者マシュー・ザオール氏でした。手紙を通じたやり取りの中で、ヘイブンズの数学への深い洞察に気づいたザオール氏は、彼を研究プロジェクトに招き入れることにしました。
💡 郵便を通じた遅いコミュニケーションという制約の中で、ヘイブンズは数学的な問題に対する新しいアプローチを提案し続けました。これが最終的に連分数に関する論文として結実したのです。
私も退職後、若い数学者との交流を通じて多くを学んでいます。年齢や経歴の差を超えた協働には、互いに得るものがあります。ヘイブンズとザオール氏の関係もそうした相互学習の素晴らしい例だと思います。
第3章:論文発表という偉業
連分数についての研究
2020年初頭、ヘイブンズを筆頭著者とする論文「Linear fractional transformations and nonlinear leaping convergents of continued fractions」が『Research in Number Theory』に掲載されました。
📚 この論文は連分数の収束性に関する新しい発見を含むもので、純粋数学の分野において価値のある貢献だと評価されています。
連分数とは数学の中でも特に美しい分野の一つです。私も退職後に連分数について学び始めましたが、その奥深さに魅了されました。無限に続く分数の形で表される数が、意外な性質や法則性を持つことの不思議さは、数学の醍醐味の一つです。ヘイブンズが独自の視点からこの分野に貢献できたことは本当に素晴らしいことだと思います。
査読付き学術誌への掲載という成果
数学の学術論文が査読付きの国際ジャーナルに掲載されるということは、専門家の厳しい審査を通過したことを意味します。これは数学者にとっても大きな成果であり、まして高校中退から独学で数学を学んだ人物にとっては驚異的な達成です。
⚠️ この成功は、環境や過去の経歴に関わらず、真摯に学問に向き合う姿勢が評価される学術界の開放性を示すとともに、ヘイブンズ自身の並外れた努力と才能の証でもあります。
私は企業で長年働いた後、65歳になってから数学の小論文を書き始めました。専門的な訓練を受けていないハンディはありますが、長年の社会経験から得た独自の視点が、時に新しい発見につながることもあります。ヘイブンズの例からも分かるように、「正統な経歴」が必ずしも学問的貢献の前提条件ではないのです。
第4章:「学ぶのに遅すぎることはない」という真実
人生における学びの機会
ヘイブンズの物語は、「学ぶのに遅すぎることはない」という言葉が単なる慰めではなく、真実であることを証明しています。
🧠 私たちの脳は、年齢に関わらず新しい知識を吸収し、新しい技能を身につける能力を持っています。特に数学のような論理的思考は、むしろ人生経験を積んだ成熟した心の方が、その美しさや意義を深く理解できることも多いのです。
私は60歳を過ぎてから微分幾何学の勉強を始めましたが、若い頃には気づかなかった数学的概念の美しさに感動する経験を何度もしています。ヘイブンズも人生の挫折を経て、成熟した視点で数学と向き合ったからこそ、独自の洞察を得られたのかもしれません。
困難を乗り越える数学の力
ヘイブンズにとって数学は、単なる時間つぶしから人生を変える情熱へと発展しました。
✨ 数学という普遍的な真理を探究する行為は、困難な環境にある人々に、現実を超えた世界への扉を開いてくれます。それは心の自由をもたらし、自己価値の再構築にもつながるのです。
私も定年後、体力の衰えなど様々な老いの兆候に直面する中で、数学の学びが心の支えになっています。年齢を重ねると失うものは多くありますが、知的好奇心と学ぶ喜びは、いくつになっても得ることができるのです。
まとめ:ヘイブンズの物語から学ぶこと
クリストファー・ヘイブンズの物語は、私たちに多くの教訓を与えてくれます:
- 人生のどんな時点からでも、真摯に学ぶ姿勢があれば大きな成果を上げることができる
- 困難な環境は必ずしも学びの障害ではなく、むしろ独自の視点を育む土壌になることもある
- 数学のような抽象的な学問は、現実の制約を超えて心に自由をもたらす力がある
- 専門家とのつながりや協働は、独学の限界を超える助けになる
私は65歳という年齢になって、改めて「学ぶことの喜び」を感じています。ヘイブンズの物語を知り、自分の「もう遅い」という思い込みが、いかに無意味なものだったかを痛感しました。
定年退職した方々や、人生の新たな章を模索している方々にお伝えしたいのは、数学に限らず、新しいことを学び始めるのに「遅すぎる」ということはないということです。むしろ、人生経験を積んだからこそ見えてくる景色もあるのです。
次回のブログでは、高齢者にとっての数学学習の具体的なアプローチについて書いてみたいと思います。「年を取ると記憶力が...」という悩みを抱える方々への、実践的なアドバイスをお届けする予定です。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。皆さんも何か新しいことを学び始めるきっかけになれば幸いです。
【矢次真也】
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