矢次真也の数学コラム:数学と料理~キッチンの中の数理科学

矢次真也の数学コラム:数学と料理~キッチンの中の数理科学

矢次真也の数学コラム:数学と料理~キッチンの中の数理科学

📊 料理には計量、比率、温度管理など様々な数学的要素が含まれている

🧮 レシピの調整や最適化は、実は応用数学の一種である

🔍 数学的視点で料理を捉えると、高齢者でも失敗の少ない調理が可能になる

はじめに

こんにちは、矢次真也です。65歳で定年退職後、数学の面白さを伝えるブログを続けています。前回は「数学と旅行」について書きましたが、今回は「数学と料理」というテーマで、キッチンの中に潜む数理科学について考えてみたいと思います。

退職後、家事を妻と分担するようになった私は、料理にも挑戦するようになりました。最初はレシピ通りに作るだけでしたが、次第に「なぜこの配分なのか」「なぜこの温度なのか」と考えるようになり、ふと気づきました。料理とは、実は化学反応と物理変化の組み合わせであり、そこには多くの数学的要素が隠れているのだと。

実際、計量、比率、温度、時間、熱伝導など、料理には様々な数理的概念が関わっています。今回は、この「数学と料理」の意外な関係について探っていきましょう。特に私たち高齢者にとって、感覚だけに頼らず数学的アプローチで料理を捉えることの利点をご紹介したいと思います。

第1章:計量と比率の数学

レシピの黄金比

多くの定番料理には、材料の「黄金比」とも言える最適な配合比が存在します。例えば、基本の天ぷら衣は「小麦粉:水=2:3」、シンプルなショートケーキは「小麦粉:砂糖:バター=3:2:2」といった具合です。

私が特に関心を持ったのは日本の「だし」の取り方です。昆布と鰹節の量、水の量、浸す時間、温度など、多くの変数が絡み合っています。試行錯誤の末、我が家の基本だしの配合は「水1リットルに対して昆布10cm×10cm、鰹節20g」に落ち着きました。この比率を基準に、用途に応じて調整しています。エンジニア時代に実験データから最適値を求めていたのと同じアプローチが、キッチンでも役立っているのです。数学的に言えば、これは多変数の最適化問題を経験的に解いているようなものです。

レシピのスケーリング

料理人数に合わせてレシピを調整する「スケーリング」も、基本的な比例計算ですが、実は単純な比例では上手くいかないことがあります。

例えば、2人分のレシピを4人分に増やす場合、単純に全ての材料を2倍にすれば良いと思いがちですが、調味料や香辛料は1.7〜1.8倍程度に抑えた方が良い場合が多いです。また、調理時間も単純比例ではなく、「√2倍」程度になることが多いのです。これは表面積と体積の関係に関わる数学的な現象です。

私は地元のシニア料理教室でこの話をすると、「いつも調味料を倍にして失敗していた」という声をよく聞きます。数学的な視点で料理を捉えると、こうした失敗を減らせるのです。特に高齢になると味覚が少し鈍くなりがちなので、より正確な計量と調整が大切になります。私自身も最近は「目分量」ではなく、きちんと計量カップやスケールを使うようになりました。

第2章:温度と時間の物理数学

熱伝導と調理時間

料理における熱の伝わり方は、熱伝導方程式という偏微分方程式で記述できます。食材の中心温度は、表面からの距離、時間、素材の熱伝導率に依存します。

例えば、肉の塊を焼く場合、厚さの2乗に比例して中心に熱が伝わる時間が長くなります。つまり、厚さ2倍の肉は、同じ中心温度に達するのに4倍の時間がかかるのです。私が最近ハマっている低温調理では、この原理を応用して、正確な中心温度を達成するために「厚さに応じた調理時間」を数学的に計算しています。

肉の種類ごとの最適温度(牛肉ミディアムは63℃、鶏むね肉は65℃など)と、厚さから調理時間を求める簡単な計算式を作ってキッチンに貼り出しています。この方法を使うようになってから、特に魚や肉の火入れの失敗が大幅に減りました。高齢者にとって、感覚や経験だけに頼るよりも、こうした数値化されたガイドラインがあると安心ですね。

発酵の数理モデル

パン作りやヨーグルト、味噌など発酵食品の製造では、微生物の増殖という数学的モデルが関わってきます。発酵は温度と時間の関数であり、ある範囲内で「温度が10℃上がると反応速度は約2倍になる」というアレニウスの法則に従います。

私は退職後、パン作りを趣味の一つにしていますが、室温によって発酵時間を調整するための簡単な表を作成しています。例えば標準の発酵時間が室温25℃で60分の場合、室温20℃なら約90分、30℃なら約40分といった具合です。この数学的な調整のおかげで、季節や天候に関わらず、ほぼ安定した発酵状態を得られるようになりました。実験データを記録して最適化するという、かつてのエンジニアとしての習慣が料理でも活きています。

第3章:料理の最適化と効率化

調理手順の最適化

複数の料理を同時に作る場合、調理手順の最適化は「クリティカルパス法」という数学的手法に似ています。これは各工程にかかる時間とその依存関係を考慮して、最も効率的な順序を見つける方法です。

例えば、夕食で「メインのシチュー」「サラダ」「ご飯」を同時に用意する場合、最初にシチューの下準備を始め、煮込んでいる間にサラダの準備とご飯の炊飯をするという具合に、並行作業を効率的に組み合わせます。私は特に手の込んだ料理を作る際、「調理フローチャート」を作るようにしています。工程ごとの所要時間を書き込み、どのタイミングで何をすべきかを可視化するのです。

この方法は特に高齢者に役立ちます。年を取ると同時進行の作業を記憶しておくのが難しくなりますが、視覚化された手順表があれば混乱せずに複数の料理を仕上げられます。地元のシニア料理教室でこの方法を紹介したところ、「頭の中が整理されて料理が楽になった」と好評でした。

食材ロスの最小化問題

食材を無駄なく使い切るためのメニュー計画も、数学的な最適化問題と捉えることができます。これは「ナップサック問題」の一種で、限られた材料から最大の満足度(栄養、美味しさなど)を得るための組み合わせを見つける問題です。

私は週に1度の買い物で、その週の食材計画を立てるようにしています。例えば、キャベツを買った場合、1日目は千切りキャベツ、2日目はロールキャベツ、3日目は野菜炒めというように、鮮度の変化に合わせて料理を変えていきます。また、肉や魚も「一度に使い切る量だけ解凍する」ではなく、「解凍した分を複数の料理に振り分ける」計画を立てます。

この「食材最適化計画」のおかげで、家庭での食品ロスが大幅に減りました。限られた年金生活では、こうした効率化も大切です。数学的思考が家計の節約にも貢献しているというわけです。

まとめ:キッチンの中の数学を楽しむ

数学と料理の関係を探ることで、私たちは多くのことを学ぶことができます:

- 料理には計量、比率、温度管理など様々な数学的要素が含まれている

- レシピの調整や手順の最適化は、応用数学の実践である

- 数学的アプローチで料理すると、再現性が高まり失敗が減る

私は65歳という年齢になって、改めて「数学と料理」という二つの活動の深い結びつきを感じています。若い頃に学んだ数学や工学の知識が、退職後の日常生活を豊かにしてくれているのです。

次回のブログでは、「数学とガーデニング」について書いてみたいと思います。植物の育成や庭のデザインに役立つ数学的視点について探ってみましょう。

最後まで読んでいただき、ありがとうございました。皆さんも日々の料理に数学的視点を取り入れてみてください。より効率的で、より美味しい料理の世界が広がるかもしれませんよ。

【矢次真也】

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