矢次真也の数学コラム:数学と未来~シニアライフを豊かにする予測と計画の数理

矢次真也の数学コラム:数学と未来~シニアライフを豊かにする予測と計画の数理

矢次真也の数学コラム:数学と未来~シニアライフを豊かにする予測と計画の数理

📊 未来予測と計画には確率論や最適化など様々な数学的手法が応用できる

🧮 高齢期の人生設計には財務計画、健康管理、時間配分の数理が役立つ

🔍 不確実性を受け入れつつ確率的思考で最適な意思決定をすることが重要

はじめに

こんにちは、矢次真也です。65歳で定年退職後、数学の面白さを伝えるブログを続けています。前回は「数学と思い出」について書きましたが、今回は「数学と未来」というテーマで、これからの人生設計に役立つ数学的アプローチについて考えてみたいと思います。

先日、古い友人と再会した際、「矢次さんはこの先10年、何をして過ごすつもりなの?」と尋ねられました。その質問に明確に答えられなかった自分に少し驚き、「退職後の人生設計をもっと具体的に考えてみよう」と思い立ったのです。エンジニアとしての習慣から、私はまず紙とペンを取り、数学的なアプローチで将来を考え始めました。

実は未来の計画や予測には、確率論、最適化、成長曲線など、様々な数学的概念が活用できます。特に私たち高齢者にとって、限られた資源(時間、健康、資金など)を最適に配分することは重要な課題です。今回は、この「数学と未来」の関係について探りながら、シニアライフをより豊かにするための数理的アプローチをご紹介したいと思います。

第1章:未来予測の数学

確率論と不確実性の受容

未来を考える上で最も基本的な数学的概念は「確率」です。将来は本質的に不確実ですが、その不確実性を数値化することで、より合理的な意思決定が可能になります。

私は退職直後、健康状態を考慮した「余命の確率分布」について考えてみました。平均寿命や家族歴から推測すると、私の場合「85歳まで生きる確率が約50%、90歳以上になる確率が約25%」という大まかな数字が得られます。この確率分布を念頭に置くことで、「あと何年ある前提で計画すべきか」という基本的な枠組みが見えてきます。もちろん、個人の寿命を正確に予測することはできませんが、確率的な視点で考えることで、極端に悲観的または楽観的な想定を避け、現実的な計画を立てられるようになります。地元のシニアサークルでこの考え方を紹介すると、「死ぬ日がわからないから計画なんて立てられない」という消極的な姿勢から、「確率的に考えて行動しよう」という前向きな姿勢に変わる方が多いことに気づきました。

成長と衰退の数理モデル

人生の様々な側面には、「成長曲線」や「衰退曲線」といった数学的パターンが見られます。これらを理解することで、これからの変化をある程度予測できます。

例えば、身体能力の衰退は一般的に直線的ではなく、加速度的な曲線を描きます。私の場合、毎月の歩行距離やウォーキングのスピードをデータとして記録していますが、分析すると年に約2〜3%のペースでゆるやかに低下していることがわかります。この傾向を数式化すると、5年後、10年後の自分の体力をおおよそ予測できます。同様に、新しい知識や技能の習得にかかる時間も年齢とともに変化しますが、これも「学習曲線」として数理モデル化できます。私は退職後、プログラミングの新しい言語を学び始めましたが、習得のペースを計測すると、若い頃より約1.5倍の時間がかかることがわかりました。こうした変化を客観的に数値化することで、無理のない計画を立てられるようになります。「できなくなること」を嘆くのではなく、「変化の傾向を理解して適応する」という前向きな姿勢が大切だと感じています。

第2章:資源配分の最適化

時間の最適配分

退職後の大きな変化の一つは、「自由に使える時間」の増加です。この貴重な資源をどう配分するかは、数学的な最適化問題として捉えることができます。

私は退職直後、「1週間の理想的な時間配分」を考えるワークシートを作成しました。活動を「健康維持」「知的刺激」「社会的交流」「趣味・楽しみ」「家族との時間」などのカテゴリーに分け、それぞれに割くべき時間を最適化する試みです。単純な線形計画法を応用して、各活動の「満足度関数」(時間投入に対する満足度の変化)を定義し、総満足度が最大になるような配分を求めました。例えば、運動は1日30分から1時間程度で満足度が最大になり、それ以上はあまり増加しない一方、読書や創作活動は2〜3時間集中すると満足度が高まる、といった具合です。この分析を通じて、「毎日少しずつ多くの活動に手を出す」よりも、「曜日ごとに異なる活動に重点的に取り組む」方が総合的な満足度が高まることがわかりました。こうした数理的なアプローチによって、漠然と日々を過ごすのではなく、より充実した時間の使い方ができるようになったと感じています。

財務計画と数理モデル

退職後の生活を支える財務計画も、数学的モデルで考えることで明確になります。特に、限られた資産で不確実な期間をカバーするという問題は、数理ファイナンスの考え方が役立ちます。

私は退職金と年金を元に、「取り崩しシミュレーション」を作成しました。ここでは「モンテカルロ・シミュレーション」という確率的手法を応用し、投資リターンの変動や予期せぬ出費、寿命の不確実性などを組み込んでいます。例えば、年間の生活費に対して、年金だけでは足りない分を貯蓄から補う場合、投資リターンが3%±2%の範囲で変動し、医療費が5年ごとに増加するというシナリオで、10,000回のシミュレーションを実行すると、95歳まで資金が持続する確率は約85%という結果が得られました。このような数値を見ることで、「余裕がある」「もう少し節約した方がよい」といった判断がより客観的にできるようになります。また、「リバース・モーゲージ」(自宅を担保に老後資金を借り入れる仕組み)などの選択肢も、数理的に評価できます。こうした財務の数理モデルは、感情的な不安や過度の楽観主義を超えて、より合理的な意思決定を支援してくれるのです。

第3章:継続と変化のバランス

習慣の力と数学的モデル

幸福な高齢期を送るためには、「継続」と「変化」のバランスが重要です。この両者のバランスも、数学的に考えることができます。

習慣の形成と維持には「指数的定着モデル」が適用できます。新しい習慣は最初の数週間が最も脱落リスクが高く、その後徐々に定着していくというパターンです。私は退職後、朝のウォーキングを習慣にしようと決め、「66日の法則」(新しい習慣が定着するのに必要な平均日数)を意識して取り組みました。最初の3週間は毎日カレンダーにチェックを入れ、「連続記録」を視覚化することで動機づけを高めました。これは数学でいう「強化学習」のアプローチです。実際、約2ヶ月続けることで、朝のウォーキングは「意識的な努力」から「自然な習慣」へと変化しました。一方、過度に固定された習慣は視野を狭め、新しい経験を妨げることもあります。そこで「探索と活用のトレードオフ」という数理的概念を応用し、「80%は確立された習慣、20%は新しい試み」という配分を心がけています。例えば、ウォーキングコースの8割は慣れた安全なルートを歩き、2割は新しい道を探索するといった具合です。こうした数理的なバランス感覚が、安定と刺激のある生活につながっていると感じています。

ネットワーク理論と人間関係

退職後の社会的なつながりも、数学的な「ネットワーク理論」の観点から考えることができます。人間関係のネットワークは、加齢とともに自然と縮小しがちですが、その質と構造は意識的に設計できます。

私は自分の人間関係を図式化してみました。中心に自分を置き、家族、友人、元同僚、趣味の仲間などのカテゴリーごとに人々を配置します。すると「密度の高いクラスター」(例:同じ趣味の仲間内の濃い交流)と「弱い紐帯」(異なるグループをつなぐ橋渡し的な関係)が見えてきます。ネットワーク理論によれば、新しい情報や機会は「弱い紐帯」を通じてもたらされることが多いとされています。この視点から、私は意識的に異なる背景を持つ人々との交流を増やす努力をしています。例えば、地元の世代間交流イベントに参加したり、オンラインの学習コミュニティで若い世代と交流したりしています。また、「中心性」という指標も重要です。自分がネットワークの「中心」にいるだけでなく、自分がいなくても持続する「分散型ネットワーク」を育てることが、より健全な社会関係の構築につながります。こうした数理的な視点で人間関係を考えることで、より豊かな社会的環境を創り出せると感じています。

第4章:未知への適応力

確率的思考と柔軟性

未来は常に不確実性を含んでいます。特に長期的な計画ほど、予期せぬ変化に対応する柔軟性が重要になります。これは数学的には「確率的思考」と「適応的戦略」の問題です。

私は将来計画を立てる際、「堅固な計画」ではなく「適応的な戦略」を重視しています。具体的には、どんな状況変化にも対応できるよう、「決定木」と呼ばれるモデルを使って考えます。例えば、「健康状態が良好なら〇〇をする」「△△という事態が発生したら××に計画を修正する」といった分岐点を事前に想定しておくのです。これは数学でいう「条件付き確率」や「ベイズ的意思決定」のアプローチです。特に注目しているのは「不可逆的な決断」と「可逆的な決断」を区別することです。前者は慎重に、後者は比較的大胆に行うという原則を守っています。例えば、住居の売却や遠方への移住といった不可逆的な決断は慎重に検討する一方、新しい趣味に挑戦するといった可逆的な決断は積極的に行っています。この「決断の可逆性」という数理的概念は、高齢期の意思決定において特に重要だと感じています。

まとめ:数学で描く豊かな未来

数学と未来の関係を探ることで、私たちは多くのことを学ぶことができます:

- 未来の不確実性は確率論的に捉えることで、より合理的な計画が立てられる

- 時間、健康、資金といった資源の最適配分は、数理的アプローチで検討できる

- 継続と変化のバランス、人間関係のネットワーク、柔軟な適応力も数学的に考えられる

私は65歳という年齢になって、改めて「数学と未来」という二つの視点の結びつきを感じています。数学的思考法は、不確かな未来に向き合うための強力なツールとなるのです。

次回のブログでは、これまでの連載を振り返り、「日常に潜む数学の魅力」について総括してみたいと思います。

最後まで読んでいただき、ありがとうございました。皆さんも未来を考える際に、数学的な視点を取り入れてみてはいかがでしょうか。より明確で柔軟な人生設計ができるかもしれませんよ。

【矢次真也】

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